2018/12/24 積分と双曲線関数

本日のお題

不定積分 \(\displaystyle I = \int \sqrt{1 + x^2} \,dx\) の求め方を教えてください。

とある学生さんからこのような質問を頂戴しましたので,この積分に纏わる事柄を幾つか確認してみたいと思います。

微分積分の教科書の多くは,この不定積分を計算する前に\[I_1 = \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx\]を扱っています。\(I_1\) が分かった上で,部分積分を用いるという方法があります。ナンカ対数の積分ぽい・・・ですね。\[I \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int (x)'\sqrt{1 + x^2} \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int x \cdot \left(\sqrt{1 + x^2}\right)' \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int x \cdot \frac{\cancel{2}x}{\cancel{2}\sqrt{1 + x^2}} \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int \frac{x^2}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx \end{array}\]さて,ここからどうするか? なかなか巧妙な手を使います。\[I \begin{array}[t]{l} \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int \frac{(1 + x^2) - 1}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int \left(\frac{1 + x^2}{\sqrt{1 + x^2}} - \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}\right) \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int \left(\sqrt{1 + x^2} - \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}\right) \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - \int \sqrt{1 + x^2} \,dx + \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx \\ \displaystyle = x\sqrt{1 + x^2} - I + I_1 \end{array}\] よって \(2I = x\sqrt{1 + x^2} + I_1\) となって\[I = \frac{1}{2}\left(x\sqrt{1 + x^2} + I_1\right)\]を得ます。

不定積分 \(I\) だけではなく \(\displaystyle \int \sqrt{1 - x^2} \,dx\) についても同様の計算ができます。まぁ,\(+\)\(-\) の違いですから当然ですね。

話しを元に戻しましょう。\(I_1\) を求めなければなりません。これは,置換積分を行います。凄い置き換えです。\[x + \sqrt{1 + x^2} = u \tag{♩}\]「なんじゃコリャ !!」と叫びたくなりますよね。でも,微積の世界では 常識 なんですよ・・・これが。それでは,まず,(♩) の両辺を微分しましょう。\[\begin{array}{l} \displaystyle \left(1 + \frac{\cancel{2}x}{\cancel{2}\sqrt{1 + x^2}}\right)\,dx = du \\[4px] \displaystyle \left(\frac{\sqrt{1 + x^2}}{\sqrt{1 + x^2}} + \frac{x}{\sqrt{1 + x^2}}\right)\,dx = du \\[4px] \displaystyle \frac{\sqrt{1 + x^2} + x}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx = du \\[4px] \displaystyle \frac{u}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx = du \\[4px] \displaystyle \frac{dx}{\sqrt{1 + x^2}} = \frac{du}{u} \end{array}\]おやっ!! もう積分の計算が殆どできてしまっていますねぇ。\[I_1 \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx \\ \displaystyle = \int \frac{du}{u} \\ \displaystyle = \log |\,u\,| + C \\ \displaystyle = \log \left(x + \sqrt{1 + x^2}\right) + C \end{array}\]以上で,とある学生さんの質問には答えることができました。

\[\begin{array}{l} \displaystyle \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}\,dx = \log \left(x + \sqrt{1 + x^2}\right) + C \\[4px] \displaystyle \int \sqrt{1 + x^2} \,dx = \frac{1}{2}\left\{x\sqrt{1 + x^2} + \log\left(x + \sqrt{1 + x^2}\right)\right\} + C\end{array}\]

ところが・・・確かに計算できたことはできたのですが,何となく不愉快です。一番面白くないのが,\(x + \sqrt{1 + x^2} = u\) の置き換えですね。微積の世界の常識と言いつつ,他で応用できそうもないし,他の関数の積分とも関係なさそうだし・・・

要するに,何処からやって来たのか分からず,他のものとも関連しない,正体不明のものを覚えなければならないというところに,理不尽と無駄を感じるのです。

この不愉快さを取り除いてくれるのが,タイトルでもある 双曲線関数 なのです。双曲線関数について知ると\[\int \frac{1}{\sqrt{1 - x^2}} \,dx \mbox{,} \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}} \,dx\]この2つの積分が親戚に見えてきて,三角関数と双曲線関数という括りの中で幾つかの積分を関連付けて考えられるようになります。

双曲線関数

双曲線関数についてまとめましょう。まずは オイラーの公式 から

オイラーの公式

\[e^{ix} = \cos x + i\sin x \tag{1}\]

\((1)\) において \(x\)\(-x\) に書き換えると \[e^{-ix} = \cos x - i\sin x \tag{2}\] \((1) + (2)\) より \[e^{ix} + e^{-ix} = 2\cos x \quad\mbox{∴}\quad\displaystyle \cos x = \frac{e^{ix} + e^{-ix}}{2} \tag{3}\] \((1) - (2)\) より \[e^{ix} - e^{-ix} = 2i\sin x \quad\mbox{∴}\quad\displaystyle \sin x = \frac{e^{ix} - e^{-ix}}{2i} \tag{4}\] 2つの式 \((3)\)\((4)\) の右辺から \(i\) を取り除くとそれぞれ\[\frac{e^{x} + e^{-x}}{2}\hspace{2em}\frac{e^{x} - e^{-x}}{2}\]となりますが,このうち左側を \(\cosh x\)(ハイパボリックコサイン),右側を \(\sinh x\)(ハイパボリックサイン)といいます。

双曲線関数

\[\cosh x = \frac{e^{x} + e^{-x}}{2} \hspace{2em} \sinh x = \frac{e^x - e^{-x}}{2} \tag{5}\]

これを双曲線関数といいます。名前に「コサイン」「サイン」が入っているくらいだから三角関数と似ているところがあるのかなぁ? その通りなんです。よく似た性質があります。

まず,三角関数について \(\cos^2 x + \sin^2 x = 1\) が成り立ちました。これは三角関数を特徴付ける関係式です。双曲線関数についても \(\cosh^2 x\)\(\sinh^2 x\) を作ると\[\cosh^2 x = \frac{e^{2x} + 2 + e^{-2x}}{4}\qquad \sinh^2 x = \frac{e^{2x} - 2 + e^{-2x}}{4}\]となるので,2式の差をとって次の関係式が得られます。

\[\cosh^2 x - \sinh^2 x = 1 \tag{6}\]

この式は,点 \(\left(\cosh x \mbox{,} \sinh x\right)\) が双曲線 \(x^2 - y^2 = 1\) の上にあるということを表していて,双曲線関数という名の由来になっています。「ちょっと待って!! それなら,\(\cos x\)\(\sin x\) は三角関数ではなく 円関数 というべきなんじゃない?」という声が聞こえてきそうです。実は,円関数は三角関数の別称なのです。

双曲線関数の加法定理

三角関数には加法定理なるものがありました。双曲関数にはどうでしょう? これまたあるのですねぇ。

双曲線関数の加法定理

\[\begin{array}{l} \cosh (\alpha + \beta) = \cosh\alpha \cosh\beta + \sinh \alpha \sin \beta \\ \sinh (\alpha + \beta) = \sinh\alpha \cosh\beta + \cosh\alpha \sinh\beta \end{array} \tag{7}\]

証明しましょう。簡単です。 \[\begin{array}[t]{l} \cosh\alpha \cosh\beta + \sinh\alpha \sinh\beta \\ \displaystyle = \frac{e^{\alpha} + e^{-\alpha}}{2} \cdot \frac{e^{\beta} + e^{-\beta}}{2} + \frac{e^{\alpha} - e^{-\alpha}}{2} \cdot \frac{e^{\beta} - e^{-\beta}}{2} \\ \displaystyle = \frac{e^{\alpha + \beta} + e^{\alpha - \beta} + e^{-\alpha + \beta} + e^{-\alpha - \beta}}{4} \\ \displaystyle \hspace{4em} + \frac{e^{\alpha + \beta} - e^{\alpha - \beta} - e^{-\alpha + \beta} + e^{-\alpha - \beta}}{4} \\ \displaystyle = \frac{e^{\alpha + \beta} + e^{-(\alpha + \beta)}}{2} \\ = \cosh (\alpha + \beta) \\[16px] \sinh\alpha \cosh\beta + \cosh\alpha \sinh\beta \\ \displaystyle = \frac{e^{\alpha} - e^{-\alpha}}{2} \cdot \frac{e^{\beta} + e^{-\beta}}{2} + \frac{e^{\alpha} + e^{-\alpha}}{2} \cdot \frac{e^{\beta} - e^{-\beta}}{2} \\ \displaystyle = \frac{e^{\alpha + \beta} + e^{\alpha - \beta} - e^{-\alpha + \beta} - e^{-\alpha - \beta}}{4} \\ \displaystyle \hspace{4em} + \frac{e^{\alpha + \beta} - e^{\alpha - \beta} + e^{-\alpha + \beta} - e^{-\alpha - \beta}}{4} \\ \displaystyle = \frac{e^{\alpha + \beta} - e^{-(\alpha + \beta)}}{2} \\ = \sinh (\alpha + \beta) \end{array}\] 以上で加法定理 \((7)\) を示すことができました。

ところで,三角関数の積分では半角の公式が大活躍です。\((7)\)\(\cosh\) について \(\alpha = \beta = x\) として,三角関数の半角の公式に相当する式を求めましょう。\[\cosh 2x \begin{array}[t]{l} = \cosh^2 x + \sinh^2 x \\ = 2\sinh^2 x + 1 \\ = 2\cosh^2 x - 1 \end{array}\]したがって,次の関係が成り立ちます。

\[\cosh^2 x = \frac{\cosh 2x + 1}{2} \qquad \sinh^2 x = \frac{\cosh 2x - 1}{2} \tag{8}\]

この式を双曲線関数の積分に用いようという企みなのですが,そもそも双曲線関数の導関数と原始関数について何も議論をしていませんでした。

双曲線関数の導関数と原始関数

\[\cosh x = \frac{e^x + e^{-x}}{2} \qquad \sinh x = \frac{e^x - e^{-x}}{2}\] でしたから,2つの関数の導関数も原始関数も簡単に求めることができます。まずは導関数からいきましょう。 \[\begin{array}{l} \displaystyle \left(\cosh x\right)' = \frac{e^x - e^{-x}}{2} = \sinh x \\ \displaystyle \left(\sinh x\right)' = \frac{e^x + e^{-x}}{2} = \cosh x \end{array}\] となります。したがって,双曲線関数の導関数及び原始関数は次のとおりです。

\[\begin{array}{lcl} \left(\cosh x\right)' = \sinh x & & \displaystyle \int \cosh x \,dx = \sinh x + C \\ \left(\sinh x\right)' = \cosh x & & \displaystyle \int \sinh x \,dx = \cosh x + C\end{array}\]

またまた,三角関数のものと似ています。

\(y = \sinh x\) の逆関数

積分の計算に戻る前に,双曲線関数の逆関数を求めておきます。三角関数の逆関数と同様に \(\sinh x\) の逆関数を \(\sinh^{-1}x\) と書きます。\(\sinh^{-1}x\) を求めましょう。すると・・・「おや~っ」という結果になりますよぉ。

\(y = \sinh^{-1}x\) とすると \[\begin{array}[t]{l} \sinh y = x \\ \displaystyle \frac{e^y - e^{-y}}{2} = x \\ \displaystyle e^y - \frac{1}{e^y} = 2x \\ (e^y)^2 - 2x \cdot e^{y} - 1 = 0 \\ e^y = x \pm \sqrt{x^2 + 1} \end{array}\] \(e^y > 0\) ですから \[\begin{array}[t]{l} e^y = x + \sqrt{1 + x^2} \\ \mbox{∴}\quad y = \log \left(x + \sqrt{1 + x^2}\right)\end{array}\] ねっ!! こんなところに現れるのです,\(\log\left(x + \sqrt{1 + x^2}\right)\) が。

しかも,\(\displaystyle \left(\sinh^{-1}x\right)' = \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}\) ですから,\(\displaystyle \left(\sin^{-1}x\right)' = \frac{1}{\sqrt{1 - x^2}}\) と併せて覚えやすくなっていますね。

\[\begin{array}[t]{l} \sinh^{-1}x = \log\left(x + \sqrt{1 + x^2}\right) \\ \displaystyle \left(\sinh^{-1}x\right)' = \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}} \qquad \left(\sin^{-1}x\right)' = \frac{1}{\sqrt{1 - x^2}} \end{array}\]

さぁ,それでは話しを積分に戻しますよぉ。ちょこっとワクワクしません?

お待たせしました 積分の計算です

\(\displaystyle \int \frac{dx}{\sqrt{1 + x^2}}\) は \(x + \sqrt{1 + x^2} = u\) とおいて置換積分を行うと説明しましたが,実のところ,ここまでの議論で次が成り立つと分かりました。

\[\int \frac{1}{\sqrt{1 - x^2}} = \sin^{-1}x + C \quad \int \frac{dx}{\sqrt{1 + x^2}} = \sinh^{-1}x + C\]

また,このページの先頭では,ここから \(\displaystyle \int \sqrt{1 - x^2}\,dx\)\(\displaystyle \int \sqrt{1 + x^2}\,dx\) を求めるために部分積分を行うとも書きましたが,これまでのことが分かると,置換積分を用いて求めてみようか・・・という気にもなります。置換積分で求めてみましょう。

\(\displaystyle x = \sin\theta\hspace{0.25em}\left(-\frac{\pi}{2} \leqq \theta \leqq \frac{\pi}{2}\right)\) とおけば \(dx = \cos\theta\,d\theta\) となり \[\int \sqrt{1 - x^2}\,dx \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int \sqrt{1 - \sin^2 x} \cdot \cos\theta \,d\theta \\ \displaystyle = \int \cos^2 \theta \,d\theta \\ \displaystyle = \int \frac{1 + \cos 2\theta}{2}\,d\theta \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\theta + \frac{1}{4}\sin 2\theta + C \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\theta + \frac{1}{2}\sin \theta \cos \theta + C \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\left(\sin^{-1}x + x\sqrt{1 - x^2}\right) + C \end{array}\]

この置き換えは,定積分 \(\displaystyle \int_0^1\sqrt{1 - x^2}\,dx\) の計算であれば,高校生が当たり前に行うものです。逆三角関数が高校での数学の学習範囲から外れているために,高校では定積分だけを扱うということなのです。

だとすると,\(\displaystyle \int \sqrt{1 + x^2}\,dx\) もまた置換積分で求められるのではないでしょうか?

\(x = \sinh u\) とおきます。\(dx = \cosh u \,du\) となりますから \[\int \sqrt{1 + x^2}\,dx \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int\sqrt{1 + \sinh^{2}u}\cdot\cosh u \,du \\ \displaystyle = \int \cosh^2 u \,du\quad (\mbox{∵}\quad \cosh u > 0) \\ \displaystyle = \int \frac{\cosh 2u + 1}{2}\,du \\ \displaystyle = \frac{1}{4}\sinh 2u + \frac{1}{2}u + C \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\sinh u \cosh u + \frac{1}{2}u + C \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\left(x\sqrt{1 + x^2} + \sinh^{-1}x\right) + C \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\left(\sinh^{-1}x + x\sqrt{1 + x^2}\right) + C \end{array}\] 双曲線関数の扱いに慣れれば,\(\displaystyle \int \sqrt{1 - x^2}\,dx\) と同じような計算をしていることが分かると思います。

折角ですから,\(\displaystyle \int \sin^{-1}x\,dx\)\(\displaystyle \int \sinh^{-1}x\,dx\) も求めてしまいましょう。 \[\int \sin^{-1}x \,dx \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int (x)'\cdot\sin^{-1}x \,dx \\ \displaystyle = x\sin^{-1}x - \int x \cdot \frac{1}{\sqrt{1 - x^2}}\,dx \\ \displaystyle = x\sin^{-1}x + \frac{1}{2}\int \frac{(1 - x^2)'}{\sqrt{1 - x^2}}\,dx \\ \displaystyle = x\sin^{-1}x + \sqrt{1 - x^2} + C \end{array}\]\[\int \sinh^{-1}x \,dx\begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int (x)'\cdot \sinh^{-1}x \,dx \\ \displaystyle = x\sinh^{-1}x - \int x \cdot \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}\,dx \\ \displaystyle = x\sinh^{-1}x - \frac{1}{2} \int \frac{(1 + x^2)'}{\sqrt{1 + x^2}}\,dx \\ \displaystyle = x\sinh^{-1}x - \sqrt{1 + x^2} + C \end{array}\]

この2つの積分も殆ど同じ計算で求めることができます。

ここでの学習を通して,双曲線関数と三角関数とが親戚同士であることをお分かりいただけたら幸甚です。

Last modified: Friday, 5 March 2021, 5:33 PM