本日のお題

ラプラス変換は何なのですか? 何の役に立つのですか? 教えてください。

とある学生さんの話しです。

僕は,専門の勉強を進めるためにラプラス変換が必要だと聞いて,自分で本を読みながらラプラス変換について勉強を始めたのですが,ラプラス変換て一体何なのかが分からずモティベーションが下がり気味なんです。
ラプラス変換の定義は覚えました。基本的な関数のラプラス変換を求めることもできます。ところが,ラプラス変換することが何になるのか? 何に役立つのか? それが見えてきません。教えていただけませんか。

とても勉強熱心な学生さんです。ズバリお答えしましょう。

ラプラス変換は,微分方程式を解くために役立ちます。特に,線形微分方程式の初期値問題に威力を発揮します。

このことを具体的な例を挙げて,ざっくりと説明します。

ラプラス変換の定義

関数 \(f(t)\) のラプラス変換は,\(\mathcal{L}[f(t)]\) という記号で表し,次のように定義されています。

\[\displaystyle \mathcal{L}[f(t)](s) = \int_0^{\infty} f(t)e^{-st}\,dt\]

上の定義式のとおりに考えると,ラプラス変換された関数は \(s\) の関数となります。この変数は \(s\) でなければいけないということはありません。例えば,Wolfram Alpha で計算してもらうと,特に断らなければ \(p\) の関数としてラプラス変換を返してくれます。慣例的に \(s\) の関数とすることが一般的なようです。

例として,\(\mathcal{L}[e^t](s)\) を求めてみましょう。 \[\mathcal{L}[e^t](s) \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int_0^{\infty} e^{t} \cdot e^{-st}\,dt \\ \displaystyle = \int_0^{\infty} e^{(1 - s)t}\,dt \\ \displaystyle = \lim_{k \to 0} \left[\frac{1}{1 - s}e^{(1 - s)t}\right]_0^k \\ \displaystyle = \lim_{k \to 0} \frac{e^{(1 - s)k} - 1}{1 - s} \end{array}\] したがってこの広義積分は,\(1 - s < 0\) すなわち \(s > 1\) のとき収束して \[\mathcal{L}[e^t](s) = \frac{-1}{1 - s} = \frac{1}{s - 1}\] となります。ラプラス変換はこのように計算します

ラプラス変換表と逆ラプラス変換

ただし,実際にラプラス変換を使って微分方程式を解くときには,積分の計算は行わずラプラス変換表を手元に置いて利用します。ラプラス変換表とは,下図のように元の関数とラプラス変換の対応を示す表です。

\[\begin{array}[t]{|c|c|c|} \hline \mbox{No.} & \hspace{1em}f(t)\hspace{1em} & \hspace{1em}\mathcal{L}[f(t)](s)\hspace{1em} \\ \hline 1 & t^n & \displaystyle \frac{n!}{s^{n + 1}} \\ \hline 2 & e^{\omega t} & \displaystyle \frac{1}{s - \omega} \\ \hline 3 & \sin\omega t & \displaystyle \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} \\ \hline 4 & \cos\omega t & \displaystyle \frac{s}{s^2 + \omega^2} \\ \hline \vdots & \vdots & \vdots \\ \hline \end{array}\]

上で求めた \(e^t\) のラプラス変換は表の「No.2 の \(\omega = 1\)」の場合となります。

この表は,左から右に見るだけでなく,右から左に見ることもできます。例えば,ラプラス変換が \(\displaystyle \frac{s}{s + 4}\) になる元の関数を知ることができます。\(\cos 2t\) ですね。ラプラス変換された \(s\) の関数から元の関数を求める操作を 逆ラプラス変換 といい \[\mathcal{L}^{-1}\left[\frac{s}{s^2 + 4}\right](t) = \cos t\] と表します。

ラプラス変換の線形性と導関数のラプラス変換

あと2つのことを説明して,実際にラプラス変換を使って,線形2階微分方程式を解いてみようと思います。あと2つの1つ目は,線形性が成り立つということです。

\[\mathcal{L}[\alpha f(t) + \beta g(t)](s) = \alpha \mathcal{L}[f(t)](s) + \beta \mathcal{L}[g(t)](s)\]

積分の線形性から理解していただけると思います。

2つ目は,導関数 \(f'(t)\) のラプラス変換を \(f(t)\) のラプラス変換で表すことができるということです。次の式が成り立ちます。

\[\mathcal{L}[f'(t)](s) = s\mathcal{L}[f(t)](s) - f(0) \tag{♩}\]

この式は確認しましょう。部分積分を用います。\[\mathcal{L}[f'(t)](s) \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int_0^{\infty} f'(t)\,e^{-st}\,dt \\ \displaystyle = \Big[f(t)\,e^{-st}\Big]_0^{\infty} - \int_0^\infty f(t)\,\left\{e^{-st}\cdot (-s)\right\}\,dt \\ \displaystyle = -f(0) + s \int_0^{\infty} f(t)\,e^{-st}\,dt \\ = s \mathcal{L}[f(t)](s) - f(0) \end{array}\]

さあ,これで準備が整いました。以上を用いて微分方程式を解きましょう。

線形2階微分方程式

解く微分方程式はこれです。

\[\displaystyle y'' - 3y' + 2y = \sin t \mbox{,} y(0) = \frac{23}{10} \mbox{,} y'(0) = \frac{31}{10}\]

いきなり非同次の微分方程式ですが,心配いりません。細かなところまで理解できなくて構いません。「あぁ,ラプラス変換を使うと微分方程式が解けるなぁ」ということを何とな~く理解していただければと思います。

まずは,\(y'' - 3y' + 2y = \sin t\) の両辺にラプラス変換を施します。\[\mathcal{L}[y''- 3y' + 2y] = \mathcal{L}[\sin t]\]さらに,左辺はラプラス変換の線形性を使い,右辺はラプラス変換表を使って変形します。\[\mathcal{L}[y''] - 3\mathcal{L}[y'] + 2\mathcal{L}[y] = \frac{1}{s^2 + 1} \tag{♪}\]続いて(♩)を使うと\[\begin{array}{l} \displaystyle \mathcal{L}[y'] = s\mathcal{L}[y] - \frac{23}{10} \\ \displaystyle \mathcal{L}[y''] = s\mathcal{L}[y'] - \frac{31}{10} = s^2\mathcal{L}[y] - \frac{23}{10}s - \frac{31}{10} \end{array}\]となりますから,これを(♪)に代入すると\[\begin{array}[t]{l} \displaystyle (s^2 - 3s + 2)\mathcal{L}[y] - \frac{23}{10}s + \frac{38}{10} = \frac{1}{s^2 + 1} \\ \displaystyle (s - 1)(s - 2)\mathcal{L}[y] = \frac{1}{s^2 + 1} + \frac{23}{10}s - \frac{38}{10} \\ \displaystyle \mathcal{L}[y] = \frac{23s^3 - 38s^2 + 23s - 28}{10(s - 1)(s - 2)(s^2 + 1)} \end{array}\]気づきましたか? 微分方程式 \(y'' - 3y' + 2y = \sin t\)\(\mathcal{L}[y]\) についての1次方程式になってしまい,\(\mathcal{L}[y]\) を求めることができています。\(\mathcal{L}[y]\) が分かれば,逆ラプラス変換を用いて \(y\) を求めることができます。\[y = \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{23s^3 - 38s^2 + 23s - 28}{10(s - 1)(s - 2)(s^2 + 1)}\right]\]

ラプラス変換を用いると,線形微分方程式の解が代数方程式の解として与えられ,微分方程式の解をとても簡単に求められる。

ここまでの議論で,上のことがご理解いただけたものと思います。

それでは最後に,逆ラプラス変換を用いて \(y\) を求めてしまいましょう。このままの形では,ラプラス変換表には載っていません。部分分数に分解すると,ラプラス変換表に載っている関数が現れます。\[\frac{23s^3 - 38s^2 + 23s - 28}{10(s - 1)(s - 2)(s^2 + 1)} = \frac{a}{s - 1} + \frac{b}{s - 2} + \frac{cs + d}{s^2 + 1}\]とおいて,\(a\)\(b\)\(c\)\(d\) を求めます。すると \(a = b = 1\)\(\displaystyle c = \frac{3}{10}\)\(\displaystyle d = \frac{1}{10}\) となって\[\frac{1}{s - 1} + \frac{1}{s - 2} + \frac{3}{10} \cdot \frac{s}{s^2 + 1} + \frac{1}{10} \cdot \frac{1}{s^2 + 1}\]を得ます。\(\displaystyle \frac{1}{s - 1}\)\(\displaystyle \frac{1}{s - 2}\)\(\displaystyle \frac{s}{s^2 + 1}\)\(\displaystyle \frac{1}{s^2 + 1}\) は,順に \(e^t\)\(e^{2t}\)\(\cos t\)\(\sin t\) のラプラス変換ですから,逆ラプラス変換を施して\[y = e^t + e^{2t} + \frac{3}{10}\cos t + \frac{1}{10}\sin t\]目出度く微分方程式を解くことができました。

Last modified: Friday, 5 March 2021, 5:39 PM