2019/05/27 余因子展開で行列式を求める
本日のお題
余因子展開で行列式を求める,具体的なやり方を教えてください。
ハイ,そうでしたね。以前の記事 行列の余因子 では,余因子の定義と余因子展開を説明したところで終わっていました。続きが必要です。まずは,余因子と余因子展開の復習をしておきましょう。
ある行列において 第 \(i\) 行・\(j\) 列成分 ― \((i,\ j)\) 成分 と書きます ― に着目して,元の行列から \(i\) 行と \(j\) 列を取り除いた行列を \((i,\ j)\) 小行列 といいました。行列 \(A\) に対して,\((i,\ j)\) 小行列を \(A_{ij}\) と書くことにすると
\[(-1)^{i+j}\cdot\left|A_{ij}\right|\]
を 行列 \(A\) の \((i,\ j)\) 成分に対する余因子 といいました。
例えば,行列 \(\pmatrix{a_{11} & a_{12} & a_{13} \cr a_{21} & a_{22} & a_{23} \cr a_{31} & a_{32} & a_{33}}\) について,\(1\) 行目と \(2\)列目を取り除いた行列 \(\pmatrix{a_{21} & a_{23} \cr a_{31} & a_{33}}\) が \((1,\ 2)\) 小行列 であり,小行列の行列式に \((-1)^{1 + 2}\) を乗じた
\[\displaystyle (-1)^{1 + 2}\left|\matrix{a_{21} & a_{23} \cr a_{31} & a_{33}}\right| = -\left|\matrix{a_{21} & a_{23} \cr a_{31} & a_{33}}\right|\]
が,\((1,\ 2)\) 成分に対する余因子です。
続いて,余因子展開 です。第 \(1\) 列に関する余因子展開のみ例示します。 \[\left|\matrix{a_{11} & a_{12} & a_{13} \cr a_{21} & a_{22} & a_{23} \cr a_{31} & a_{32} & a_{33}}\right| = a_{11} \left|\matrix{a_{22} & a_{23} \cr a_{32} & a_{33}}\right| - a_{21} \left|\matrix{a_{12} & a_{13} \cr a_{32} & a_{33}}\right| + a_{31} \left|\matrix{a_{12} & a_{13} \cr a_{22} & a_{23}}\right|\] この式が,行列式の定義から成り立つことを以前確認しました。ここでは,行列 \(\pmatrix{1 & 0 & 2 \cr 2 & 1 & -1 \cr -1 & 2 & 1}\) について,両辺の計算をしておきましょう。 \[\begin{eqnarray} \mbox{LH} &=& 1 + 0 + 8 - (-2) - 0 - ( -2) \\ &=& 13 \\[4px] \mbox{RH} &=& 1\cdot\left|\matrix{1 & -1 \cr 2 & 1}\right| - 1\cdot\left|\matrix{0 & 2 \cr 2 & 1}\right| + (-2)\cdot\left|\matrix{0 & 2 \cr 1 & -1}\right| \\ &=& 1\cdot 3 - 2\cdot(-4) + (-1)\cdot(-2) \\ &=& 3 + 8 + 2 \\ &=& 13 \end{eqnarray}\] 言うまでもないことですが,左辺の計算にはサラスの公式を用いています。
ここまでのことを4行4列の正方行列に拡張すれば,4行4列の正方行列の行列式は,3行3列の正方行列の行列式に余因子展開して求めることができます。それどころか,もっと大きな行列の行列式になっても,余因子展開により行列を小さくしながら求められることになります。
行基本変形を組み合わせる
行列式の計算は,計算できて目出度し目出度しというものではありません。問題解決のための道具として結果が得られたら,それを使って次の段階に進むことになります。そうであれば,計算はできるだけ容易な方法が望ましいということになります。行基本変形のうち 行列のある行に他の行のスカラー倍を加える という変形により,行列式の計算を簡単にできるので,その方法について説明しましょう。
行列 \(A\) の第 \(i\) 行に第 \(j\) 列の \(c\) 倍を加えるという変形は,単位行列の \((i,\ j)\) 成分\((i \ne j)\) の \(0\) を \(c\) に置き換えた行列を \(A\) の左側からかけるという操作でした。この行列は,以前の記事で \(R_n(i,\ j,\ c)\) と書きました。
このとき \(\left|R_n(i,\ j\ ,c)A\right| = 1\) ですから \[\left|R_n(i,\ j,\ c)A\right| = \left|R_n(i,\ j,\ c)\right|\left|A\right| = \left|A\right|\] が成り立ちます。つまり,行列のある行に他の行のスカラー倍を加えても,行列式の値は変わらないということです。したがって,次のような計算が成り立ちます。 \[\begin{eqnarray} \left|\matrix{1 & 0 & 2 \cr 2 & 1 & -1 \cr -1 & 2 & 1}\right| &=& \left|\matrix{1 & 0 & 2 \cr 0 & 1 & -5 \cr 0 & 2 & 3}\right| \tag{1}\\[2px] &=& 1 \cdot \left|\matrix{1 &-5 \cr 2 & 3}\right| \tag{2}\\[2px] &=& 13 \end{eqnarray}\] \((1)\) では,第 \(2\) 行に第 \(1\) 行の \(-2\) 倍を加え,第 \(3\) 行に第 \(1\) 行を加えました。その上で,\((2)\) において余因子展開をしています。\((2,\ 1)\) 成分と \((3,\ 1)\) 成分が \(0\) ですから,\((1,\ 1)\) 成分に対する余因子だけが残り,上のような結果になります。
4行4列の正方行列の行列式を求めよう
最後に,行列 \(A = \pmatrix{1 & 2 & -3 & -1 \cr 2 & -1 & 1 & -3 \cr -1 & 3 & 1 & 2 \cr -1 & 2 & -1 & 1}\) の行列式を求めてみましょう。
先に,\(\mbox{GeoGebra}\) で行列式の計算をしたところ次のようになりました。
それでは,行列式の値が \(20\) になることを目指して計算しましょう。 \[\begin{eqnarray} \left|\matrix{1
& 2 & -3 & -1 \cr 2 & -1 & 1 & -3 \cr -1 & 3 & 1 & 2 \cr -1 & 2 & -1 & 1}\right| &=& \left|\matrix{1 & 2& -3 & -1 \cr 0 & -5 & 7 & -1 \cr 0 & 5 & -2 &
1 \cr 0 & 4 & -4 & 0}\right| \tag{3}\\ &=& 1\cdot\left|\matrix{-5 & 7 & -1 \cr 5 & -2 & 1 \cr 4 & -4 & 0}\right| \tag{4}\\ &=& \left|\matrix{0 & 5 & 0 \cr 0 & -7 & 1 \cr 4
& -4 & 0}\right| \tag{5}\\ &=& (-1)^{1 + 3}\cdot 4 \cdot\left|\matrix{5 & 0 \cr -7 & 1}\right| \tag{6}\\ &=& 20 \end{eqnarray}\] ハイ!! 確かに \(20\) になりました。念のために,計算過程の解説をつけておきます。
\((3)\) | 第 \(2\) 行 \(-\) 第 \(1\) 行 \(\times\ 2\) |
第 \(3\) 行 \(+\) 第 \(1\) 行 | |
第 \(4\) 行 \(+\) 第 \(1\) 行 | |
\((4)\) | 第 \(1\) 列について余因子展開 |
\((5)\) | 第 \(1\) 行 \(+\) 第 \(2\) 行 |
第 \(2\) 行 \(-\) 第 \(3\) 行 \(\times\ 5/4\) | |
\((6)\) | 第 \(1\) 列について余因子展開 |