2019/05/29 行列の固有値・固有ベクトル

本日のお題

行列の固有値と固有ベクトルについて教えてください。

ハイ!! 承知しました。それでは,行列の固有値と固有ベクトルの定義から \(\cdots\)。ここでは2行2列の正方行列について説明しますが,大きな正方行列になっても定義は変わりません。

固有値と固有ベクトル

正方行列 \(A = \pmatrix{a & b \cr c & d}\) について \[\pmatrix{a & b \cr c & d}\pmatrix{x \cr y} = \lambda\pmatrix{x \cr y}\ ,\ \pmatrix{x \cr y} \ne \pmatrix{0 \cr 0}\] が成り立つとき,\(\lambda\) を行列 \(A\)固有値 といい,ベクトル \(\pmatrix{x \cr y}\) を固有値 \(\lambda\) に対する 固有ベクトル といいます。

御質問の学生さんの興味は,固有値・固有ベクトルを求めることだと思いますが,慌てない慌てない \(\cdots\) チョットした実験からユルリと参りましょう。

行列 \(A = \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\) として,下図の赤のベクトルは \(\pmatrix{x \cr y}\),青のベクトルは \(A\pmatrix{x \cr y}\) です。ベクトル \(\pmatrix{x \cr y}\) の終点をマウスでドラッグするとベクトル \(\pmatrix{x \cr y}\) が動き,それに伴って \(A\pmatrix{x \cr y}\) も動きます。実験は,赤いベクトルと青いベクトルの2つを重ねてみよう \(\cdots\) というものです。

\(x\)

\(y\)

初期状態は \(\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{1 \cr 0}\) であり,\(A\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{4 \cr -2}\) です。まずは,赤いベクトルを動かしてみましょう。青いベクトルがどのように動いているか?その規則性が分かりますか? 残念ならが,動かして見ても規則性はよく分かりません。

次に,赤いベクトルと青いベクトルとが同じ向きを向く(重なる)ところがありますから見つけましょう。

重なる方向が見つかったら,2つのベクトルが同じ向きを向いたとき青いベクトルは赤いベクトルの何倍になるか? おおよその数を見つけましょう。解答 隠す

行列 \(\pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\) の固有値と固有ベクトル

上の実験から分かったことは,次のような式が成り立つということです。

\(\pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\pmatrix{1 \cr -2} = 2\pmatrix{1 \cr -2}\ ,\ \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\pmatrix{1 \cr -1} = 3\pmatrix{1 \cr -1}\)

固有値・固有ベクトルの定義に当てはめると,\(2\)\(3\) は行列 \(\pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\) の固有値であり,ベクトル \(\pmatrix{1 \cr -2}\) は固有値 \(2\) に対する固有ベクトル,ベクトル \(\pmatrix{1 \cr -1}\) は固有値 \(3\) に対する固有ベクトルとなります。

固有値 \(2\) に対して,直線 \(2x + y = 0\) と同じ方向のベクトルがすべて固有ベクトルになっていることはお分かりになると思います。

問題は,行列 \(\pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\) には他に固有値がないのか? そもそも固有値 \(2\)\(3\) はどのように見つけることができるか? です。

特性方程式

固有値・固有ベクトルの定義から

\[\begin{eqnarray} && \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\pmatrix{x \cr y} = \lambda\pmatrix{x \cr y} \\[2px] && \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\pmatrix{x \cr y} - \lambda \pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{0 \cr 0} \\[2px] && \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\pmatrix{x \cr y} - \lambda \pmatrix{1 & 0 \cr 0 & 1}\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{0 \cr 0} \\[2px] && \pmatrix{4 - \lambda & 1 \cr -2 & 1 - \lambda}\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{0 \cr 0} \tag{1} \end{eqnarray}\]

ここで,固有ベクトル \(\pmatrix{x \cr y}\) は零ベクトルではないことに注意すると,行列 \(\pmatrix{4 - \lambda & 1 \cr -2 & 1 - \lambda}\) は逆行列をもってはいけないことが分かります。もし,逆行列をもつと,式 \((1)\) の左から逆行列をかけて \(\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{0 \cr 0}\) となってしまいます。

したがって \(\left|\matrix{4 - \lambda & 1 \cr -2 & 1 - \lambda}\right| = 0\) でなければなりません。

逆に,\(\left|\matrix{4 - \lambda & 1 \cr -2 & 1 - \lambda}\right| = 0\) であれば,2直線 \[\left\{\begin{array}{l}(4 - \lambda)x + y = 0 \\ -2x + (1 - \lambda)y = 0\end{array}\right.\] は同一の直線を表し,この直線と同じ向きのベクトルはすべて固有ベクトルになります。

そこで,方程式 \[\left|\matrix{4 - \lambda & 1 \cr -2 & 1 - \lambda}\right| = 0\qquad\Big(\left|A - \lambda E\right| = 0\Big)\] を行列 \(\pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\)特性方程式 と呼びます。

特性方程式を解けば固有値を得られるということですから,特性方程式を解いて固有値を求めましょう。 \[\begin{eqnarray} && (4 - \lambda)(1 - \lambda) + 2 = 0 \\[2px] && 4 - 5\lambda + \lambda^2 + 2 = 0 \\[2px] && \lambda^2 - 5\lambda + 6 = 0 \\[2px] && (\lambda - 2)(\lambda -3) = 0 \\[2px] && ∴\quad \lambda = 2\ ,\ 3 \end{eqnarray}\] 最初に行った実験の結果とも一致します。

\(\lambda = 2\) のとき,式 \((1)\)\(\pmatrix{2 & 1 \cr -2 & -1}\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{0 \cr 0}\) となるので,固有ベクトルは \(2x + y = 0\) をみたすベクトルです。例えば \(\pmatrix{1 \cr -2}\) などをとることができます。

また \(\lambda = 3\) のとき,式 \((1)\)\(\pmatrix{1 & 1 \cr -2 & -2}\pmatrix{x \cr y} = \pmatrix{0 \cr 0}\) となるので,固有ベクトルは \(x + y = 0\) をみたすベクトルです。例えば \(\pmatrix{1 \cr -1}\) などをとることができます。

行列の対角化

最後に,行列の対角化についてホンの少しだけ触れておきます。ここでも,行列 \(A = \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\) を題材にして話しを進めます。

行列 \(A = \pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\) には2つの固有値 \(2\)\(3\) があり

・固有値 \(2\) に対する固有ベクトルの1つが \(\pmatrix{\textcolor{red}{1} \cr \textcolor{red}{-2}}\)

・固有値 \(3\) に対する固有ベクトルの1つが \(\pmatrix{\textcolor{blue}{1} \cr \textcolor{blue}{-1}}\)

でした。2つの固有ベクトル(列ベクトル)を並べて作った行列 \(\pmatrix{\textcolor{red}{1} & \textcolor{blue}{1} \cr \textcolor{red}{-2} & \textcolor{blue}{-1}}\) を行列 \(P\) とします。

行列 \(P\) の逆行列を求めると \(P^{-1} = \pmatrix{-1 & -1 \cr -2 & 1}\) です。3つの行列の積 \(P^{-1}AP\) を計算してみましょう。 \[\begin{eqnarray} P^{-1}AP &=& \pmatrix{-1 & -1 \cr -2 & 1}\pmatrix{4 & 1 \cr -2 & 1}\pmatrix{1 & 1 \cr -2 & -1} \\[2px] &=& \pmatrix{-1 & -1 \cr -2 & 1}\pmatrix{2 & 3 \cr -4 & -3} \\[2px] &=& \pmatrix{\textcolor{green}{2} & \textcolor{orange}{0} \cr \textcolor{orange}{0} & \textcolor{green}{3}} \end{eqnarray}\] 正方行列について,左上から右下にかけて引いた対角線上の成分を 対角成分 といいます。そして,対角成分以外の成分が \(0\) である行列を 対角行列 といいます。3つの行列の積は対角行列になりました。しかも,対角成分が行列 \(A\) の固有値になっています。これは偶然でしょうか? いいえ,2つの異なる実数の固有値をもつ2行2列の正方行列では,必ずこのようになります。

証明は簡単です。

行列 \(A\) について \(A\boldsymbol{u} = \lambda_1\boldsymbol{u}\ ,\ A\boldsymbol{v} = \lambda_2\boldsymbol{v}\) が成り立っているとします。つまり,\(\lambda_1\)\(\lambda_2\) は行列 \(A\) の固有値であり,列ベクトル \(\boldsymbol{u}\)\(\boldsymbol{v}\) はそれぞれ \(\lambda_1\)\(\lambda_2\) に対する行列 \(A\) の固有ベクトルです。

2つの列ベクトルを並べて作った行列を \((\boldsymbol{u},\ \boldsymbol{v})\) と書くことにします。

\(P = (\boldsymbol{u},\ \boldsymbol{v})\) とすると \[\begin{eqnarray} P^{-1}AP &=& P^{-1}A\big((\boldsymbol{u},\ \boldsymbol{o}) + (\boldsymbol{o},\ \boldsymbol{v})\big) \\[2px] &=& P^{-1}\big(A(\boldsymbol{u},\ \boldsymbol{o}) + A(\boldsymbol{o},\ \boldsymbol{v})\big) \\[2px] &=& P^{-1}\big((\lambda_1\boldsymbol{u},\ \boldsymbol{o}) + (\boldsymbol{o},\ \lambda_2\boldsymbol{v})\big) \\[2px] &=& \lambda_1 P^{-1}(\boldsymbol{u},\ \boldsymbol{o}) + \lambda_2 P^{-1}(\boldsymbol{o},\ \boldsymbol{v}) \\[2px] &=& \lambda_1\pmatrix{1 & 0 \cr 0 & 0} + \lambda_2\pmatrix{0 & 0 \cr 0 & 1} \\[2px] &=& \pmatrix{\lambda_1 & 0 \cr 0 & \lambda_2} \end{eqnarray}\] 以上が成り立ちます。それでは,このことに何の意味があるか? という話しになると際限がなくなってしまいます。今日のところは,この辺りで納めたいと思います。

ここから先の話しは,線形空間(ベクトル空間)の概念を入れて考える必要があります。そうすることによって,最初にやった実験 ― 赤いベクトルに対して青いベクトルがどのように動くか ― の答えもある程度見えてきます。その話しは,また,おいおい \(\cdots\) といたします。乞う御期待!!

最終更新日時: 2021年 03月 5日(金曜日) 17:33