本日のお題

四分円の重心は,どこにあるのですか? 求め方も併せて教えてください。

とある学生さんから「四分円の重心の位置はどのように求められるか?」という質問をいただきました。勿論,数学的な問題でもあるのですが,重心の位置についてはむしろ力学において重要な話題になってきます。例えば,剛体の運動を考える際には物体の回転を考慮する必要があり,回転の中心が物体の重心からどれだけズレているかで運動が変わってきます。このようなことが理由の一つです。力学では,重心の位置の特定が問題を解決するための鍵となることがあります。

ということで,今日は,四分円を例にして,一様な板状の物体の重心の位置はどのように求められるか? 求め方を考えましょう。

てこの規則性

物体のつり合いについては,小学校でまず「てこの規則性」を学んでいます。

長さ 50cm の棒があります。棒の左端に重さ 1kg のオモリを,右端に重さの分からないオモリをそれぞれつけました。この棒を,棒の左から 20cm,右から 30cm のところで支えると左右のおもりがちょうどつり合いました。右端につけたオモリの重さは 何kg でしょうか?

この問いでは,棒の重さは無視しています。(ただし,中学校へのお受験では,重さのある棒について解けなければいけないようです。)このようにつり合っているとき,左右の腕で次のことが成り立っています。

「オモリの重さ \(\times\) 支点からオモリまでの距離」が等しい

これが小学校での説明です。ここまで分かっていれば,2つのオモリの重さが分かっているとき,つり合う支点の位置(つまり重心の位置)を求めることができます。力のモーメントという言葉こそ使われていないものの,その概念はすでに登場しています。

物体のつり合いと力のモーメント

力のモーメントという言葉は高校の物理で漸く現れます。そして剛体が釣り合っている場合には

  • 剛体にかかる力の和が \(0\) である。
  • 任意の点の周りで力のモーメントの和が \(0\) である。

が成り立っていると解説されています。それでは,このことを用いて,重心の位置を求めてみましょう。相変わらず,棒の重さは無視できるものとします。

\(x\)

\(\mbox{O}\)

\(x_1\)

\(x_G\)

\(x_2\)

\(m_1 g\)

\(m_2 g\)

\(F\)

上の図のように,棒の左端と右端の \(x\) 座標をそれぞれ \(x_1\)\(x_2\) とし,この系の重心の \(x\) 座標を \(x_G\) とします。さらに,青色のオモリと赤色のオモリの質量をそれぞれ \(m_1\)\(m_2\),さらに支点にかかる力を \(F\) とします。

まず,この系にかかる力の合力が \(\vec{0}\) になりますから \[F = m_1 g + m_2 g = (m_1 + m_2)g\]です。さらに,原点周りのモーメントの和も \(0\) になるので,原点を中心に反時計回りを正とすれば\[\begin{array}{c}(m_1 + m_2)g \cdot x_G - m_1 g \cdot x_1 - m_2 g \cdot x_2 = 0 \\[4px] \mbox{∴}\quad \displaystyle x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} \end{array}\]内分点の座標の式と似ていますが,ちょっと考えれば,そうなることは当然だと気づきますね。

密度が均一でない棒の重心

続いて,質量のある棒の重心を求めましょう。密度が均一であれば棒の端と端の中点に重心があるので,密度が均一でない場合を考えます。

\(x\)

\(\mbox{O}\)

\(\mbox{A}\)

\(\mbox{B}\)

\(x_1\)

\(x_2\)

\(\Delta x\)

\(x\)

図のように棒の両端を \(\mbox{A}\)\(\mbox{B}\),それぞれの \(x\) 座標を \(x_1\)\(x_2\) とし,また \(x\) における密度が \(\rho(x)\hspace{0.5em}(\mbox{kg/m})\) で表されるものとします。

図中の赤色で塗られた微小部分(極々小さいものと考えてください)を考えましょう。この微小部分の質量は \(\rho(x) \cdot \Delta x\) ですから,原点周りのモーメントは \(-\rho(x)\Delta x\,g x\) となります。このような微小部分のモーメントを,棒の端から端まで加えます。すると\[\sum_{x_1 \leqq x \leqq x_2} \left\{-\rho(x)\Delta x\,gx\right\} = -g \sum_{x_1 \leqq x \leqq x_2} \rho(x)x \cdot \Delta x\]となるので,\(\Delta x \to 0\) として極限をとると,原点を中心とした右回りのモーメントの和は次の積分で求められることが分かります。\[-g \int_{x_1}^{x_2}\rho(x)x\,dx\]したがって,重心の \(x\) 座標を \(x_G\) とし,棒の質量を \(M\) とおけば\[\begin{array}[t]{c} \displaystyle Mg\,x_G - g \int_{x_1}^{x_2} \rho(x)x\,dx = 0 \\ \displaystyle \mbox{∴}\quad x_G = \frac{1}{M} \int_{x_1}^{x_2} \rho(x)x\,dx \end{array}\]

四分円の重心の位置

それでは,お題の四分円の重心の位置に取り掛かりましょう。厚みと密度が一定の均質な板状の四分円を考えまます。

\(x\)

\(y\)

\(\mbox{R}\)

\(\mbox{R}\)

\(x_G\)

\(y_G\)

上の図のように,中心が原点にあり半径が \(R\),中心角が \(0\) から \(\displaystyle \frac{\pi}{2}\) までの四分円について,重心の位置を求めましょう。\(x\) 軸周りと \(y\) 軸周りのモーメントに分けて考えます。重心 \(\mbox{G}\) の座標を \(\left(x_G\mbox{,}y_G\right)\) とすると,\(y\) 軸周りのモーメントから \(x_G\) を,\(x\) 軸周りのモーメントから \(y_G\) を求めることができます。

\(x\)

\(y\)

\(\mbox{R}\)

\(\mbox{R}\)

\(x\)

\(\Delta x\)

\(\sqrt{R^2 - x^2}\)

上の図の濃い色で塗られた微小部分は,幅 \(\Delta x\) で高さ \(\sqrt{R^2 - x^2}\) の長方形だから,この物体の密度を \(\rho\) とすれば質量が \(\rho \cdot \Delta x\,\sqrt{R^2 - x^2}\) となります。よって,この微小部分の \(y\) 軸周りのモーメントは \(\rho \Delta x\,\sqrt{R^2 - x^2}\,g\cdot x\) です。

したがって,\(y\) 軸周りのモーメントの和は\[\int_0^R \rho \sqrt{R^2 - x^2}\,g\cdot x \,dx \begin{array}[t]{l} = \displaystyle \rho g \int_0^R x\sqrt{R^2 - x^2} \,dx \\ \displaystyle = -\frac{\rho g}{2} \int_0^R (R^2 - x^2)'\sqrt{R^2 - x^2}\,dx \\ \displaystyle = -\frac{\rho g}{2}\left[\frac{2}{3}\sqrt{(R^2 - x^2)^3}\right]_0^R \\ \displaystyle = \frac{\rho g R^3}{3} \end{array}\]四分円の質量は \(\displaystyle \rho\cdot \frac{\pi R^2}{4}\) だから\[\begin{array}{c} \displaystyle \rho \cdot \frac{\pi R^2}{4} \cdot x_G - \frac{\rho g R^3}{3} = 0 \\ \displaystyle \mbox{∴}\quad x_G = \frac{\displaystyle\frac{\rho g R^3}{3}}{\displaystyle \frac{\pi R^2}{4}\cdot g} = \frac{4R}{3\pi} \end{array}\]

\(y_G\) についても同様の議論ができるので \(\displaystyle y_G = \frac{4R}{3\pi}\) となって四分円の重心の座標が\[\mbox{G} = \left(\frac{4R}{3\pi}\mbox{,}\frac{4R}{3\pi}\right)\]であることが分かりました。

最終更新日時: 2022年 05月 10日(火曜日) 18:28