2019/01/24 重心周りの慣性モーメント

本日のお題

慣性モーメントとは何でしょう? 求め方も併せて教えてください。

最近,物理関係の質問が多いのです。私・・・数学の教員なんですけど・・・^^

慣性モーメントは高校で扱わないんですよね,多分,勉強した記憶がないし・・・。こうなると,私には結構辛いものがあります。にもかかわらず,学生の皆さんは,数式が出てくれば数学の教員に質問してもイイだろう・・・程度に考えるようです。

などとボヤいていても仕方がないので,頑張りましょう。

円運動をしている質点を考え,点にかかる力を \(F\),加速度と速度をそれぞれ \(a\)\(v\),回転の半径と角速度を \(r\)\(\omega\) とします。すると,次の運動方程式と「\(v\)\(\omega\) の関係」とが成り立ちます。\[F = ma\ \mbox{,}\ v = r\omega\]この2式のうち第2式の両辺を \(t\) で微分した \(a = r\dot{\omega}\) を第1式に代入します。\[F = mr\dot{\omega}\]さらにこの式の両辺を \(r\) 倍すると\[Fr = mr^2\dot{\omega}\]となります。\(mr^2\) は定数ですから,力のモーメントは円運動の各加速度に比例すると見ることができます。ただし,この表現は因果関係が逆になっているように感じます。(数学的には「両者が比例関係にある」と言っているに過ぎません。)因果関係に即して言えば,「回転運動では,力のモーメントに比例した角加速度が生じる。」ですね。このときの比例定数 \(mr^2\) を慣性モーメントと呼びます。物体の回転しやすさを表します。

実際に,いくつかの形状の物体について慣性モーメントを求めてみましょう。

二つの錘が棒でつながれた物体の慣性モーメント

下の図のような物体を考えましょう。錘の質量はとも \(m\) とし,棒の長さは \(l\) で重さは無視できるものとします。

\(\displaystyle \frac{l}{2}\)

\(\displaystyle \frac{l}{2}\)

回転の中心がどこにあるかで慣性モーメントの値は変わります。ここでは,重心を回転の中心として,重心周りの慣性モーメントを求めます。

重心は棒の中点です。したがって,それぞれの錘に対して慣性モーメントが \(m \times \left(\frac{l}{2}\right)^2\) となり,これを加えるこの物体の重心周りの慣性モーメントが求められます。重心周りの慣性モーメントを \(I_G\) で表すと\[I_G = m\left(\frac{l}{2}\right)^2 \times 2 = \frac{1}{2} ml^2\]

\[\displaystyle I_G = \frac{1}{2}ml^2\]

密度と太さが一様な棒の慣性モーメント

次に考える物体は,長さ \(l\) の棒です。太さや密度は一様だとし,単位長さ当たりの質量 ― つまり密度 ― を \(\rho\) とします。求める慣性モーメントは,重心すなわち棒の中点周りの慣性モーメントです。

\(x\)

\(y\)

\(\displaystyle \frac{l}{2}\)

\(\displaystyle -\frac{l}{2}\)

\(x\)

\(\Delta x\)

上の図のように棒の重心(中点)に原点をとって,座標軸を設けます。図中の濃く塗られた,幅 \(\Delta x\) の微小部分については,質量が \(\rho\Delta x\) なので,重心周りの慣性モーメントは\[\rho\Delta x\,x^2 = \rho x^2 \, \Delta x\]となります。これを棒全体に渡って加えるので,求める慣性モーメント \(I_G\) は次のような積分計算になります。\[I_G \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int_{-\frac{l}{2}}^{\frac{l}{2}} \rho x^2 \,dx \\ \displaystyle = 2 \int_0^{\frac{l}{2}} \rho x^2 \, dx \\ \displaystyle = 2\rho \left[\frac{1}{3}x^3\right]_0^{\frac{l}{2}} \\ \displaystyle = \frac{1}{12} \rho l^3 = \frac{1}{12}(\rho l)l^2 = \frac{1}{12}ml^2 \end{array}\]

\[\displaystyle I_G = \frac{1}{12}ml^2\]

長方形板の慣性モーメント

長さが \(a \times b\) の長方形板(質量 \(m\),単位面積当たりの質量 \(\rho\))を考えましょう。板の面と同じ面上での重心周りの慣性モーメントを求めます。

\(x\)

\(y\)

\(x\)

\(\Delta x\)

\(y\)

\(\Delta y\)

\(\sqrt{x^2 + y^2}\)

\(\displaystyle \frac{a}{2}\)

\(\displaystyle -\frac{a}{2}\)

\(\displaystyle \frac{b}{2}\)

\(\displaystyle -\frac{b}{2}\)

ここでも,重心に原点をとり,長方形の各辺に平行な座標軸を設けます。上の図中の微小部分は,質量が \(\rho\Delta x\Delta y\) であり,重心からの距離が \(\sqrt{x^2 + y^2}\) です。したがって,この部分の重心周りの慣性モーメントは次のとおりです。\[\rho\Delta x\Delta y\,(x^2 + y^2) = \rho(x^2 + y^2)\,\Delta x \Delta y\]これを板全体に渡って加えるので,今度は重積分の計算を行うことになります。\[I_G \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int_{-\frac{b}{2}}^{\frac{b}{a}}\int_{-\frac{a}{2}}^{\frac{a}{2}} \rho(x^2 + y^2)\,dxdy \\ \displaystyle = 4\rho\int_0^{\frac{b}{2}}\int_0^{\frac{a}{2}}(x^2 + y^2)\,dxdy \\ \displaystyle = 4\rho\int_0^{\frac{b}{2}}\left[\frac{1}{3}x^3 + xy^2\right]_0^{\frac{a}{2}}\,dy \\ \displaystyle = 4\rho\int_0^{\frac{b}{2}}\left(\frac{1}{24}a^3 + \frac{1}{2}a y^2\right)dx \\ \displaystyle = 4\rho\left[\frac{1}{24}a^3 y + \frac{1}{6}a y^3\right]_0^{\frac{1}{2}b} \\ \displaystyle = 4 \rho \left(\frac{1}{48}a^3 b + \frac{1}{48}ab^3\right) \\ \displaystyle = \frac{1}{12}\rho ab(a^2 + b^2) \\ \displaystyle = \frac{1}{12} m(a^2 + b^2) \end{array}\]

\[\displaystyle I_G = \frac{1}{12}m\left(a^2 + b^2\right)\]

円板の慣性モーメント

最後に円板の重心周りの慣性モーメントを求めましょう。半径を \(R\),質量を \(m\),単位面積当たりの質量を \(\rho\) とします。

\(x\)

\(y\)

\(x\)

\(\Delta x\)

\(y\)

\(\Delta y\)

\(\sqrt{x^2 + y^2}\)

\(R\)

\(-R\)

\(R\)

\(-R\)

円の中心に原点をとり,座標軸を設けます。長方形板と比較して,積分範囲だけが変わります。\[D = \left\{(x\mbox{,}y)\,|\,x^2 + y^2 \leqq R^2\right\}\]とおくと,円板の重心周りの慣性モーメントは次の積分で求められます。\[I_G = \int\!\!\!\int_D \rho(x^2 + y^2)\,dxdy\]この計算は,変数変換をしないと厄介です。\[x = r\cos\theta\ \mbox{,}\ y = r\sin\theta\]と置き換えると\[\begin{array}[t]{lcl} x_r = \cos\theta && y_r = \sin\theta \\ x_{\theta} = -r\sin\theta && y_{\theta} = r\cos\theta \end{array}\]また,積分範囲は次のようになります。\[0 \leqq \theta \leqq 2\pi \ \mbox{,}\ 0 \leqq r \leqq R\]さらに,ヤコビアンが \(|\,J\,| = r\cos^2\theta + r\sin^2\theta = r\) となって\[I_G \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \rho\int_0^{R}\int_0^{2\pi} r^2\left(\cos^2\theta + \sin^2\theta\right)\cdot r \,dx \\ \displaystyle = \rho\int_0^R r^3 \,dr \cdot \int_0^{2\pi} d\theta \\ \displaystyle = \rho \left[\frac{1}{4}r^4\right]_0^{R} \cdot \Big[\theta\Big]_0^{2\pi} \\ \displaystyle = \frac{1}{2} \rho\pi R^4 = \frac{1}{2}\left(\rho\pi R^2\right)R^2 = \frac{1}{2}mR^2 \end{array}\]

\[\displaystyle I_G = \frac{1}{2}mR^2\]

重心以外の点を回転の中心とする場合の慣性モーメントについては,またの機会に説明したいと思います。

Last modified: Friday, 5 March 2021, 5:29 PM