本日のお題

下の図のような物体の3点 \(\mbox{A}(2\,\mbox{m},\ 2\,\mbox{m})\)\(\mbox{B}(-1\,\mbox{m},\ 2\,\mbox{m})\)\(\mbox{C}(-1\,\mbox{m},-2\,\mbox{m})\) にそれぞれ \(\boldsymbol{F}_1(-2\,N,\ 1\,N)\)\(\boldsymbol{F}_2(-2\,N,\ 2\,N)\)\(\boldsymbol{F}_3(4\,N,\ 1\,N)\) の力が作用している。この物体にかかる力の原点周りのモーメントの和を求めよ。

力学の教科書にある問題です。模範解答ではベクトルの外積を使って計算しているのですが,外積でモーメントを求められる理由が分かりません。教えてください。

\(x\)

\(y\)

\(\boldsymbol{F}_1\)

\(\boldsymbol{F}_2\)

\(\boldsymbol{F}_3\)

オ~ケ~!! 解説しましょう。

最初に,高等学校の物理で力のモーメントをどのように扱ったかを復習しましょう。下の図の物体の点 \(\mbox{A}\) に力 \(\boldsymbol{F}\) が作用しているとします。この力の原点周りのモーメントを考えます。

\(x\)

\(y\)

\(\boldsymbol{F}\)

力のベクトル \(\boldsymbol{F}\) と同じ方向に直線を描き,さらにモーメントの中心(今は原点)から直線に垂線を下ろして,垂線の足を \(\mbox{H}\) とします。

\(x\)

\(y\)

\(\boldsymbol{F}\)

すると,線分 \(\mbox{OH}\) がモーメントを考える際の ウデ になって,力 \(\boldsymbol{F}\) の原点周りのモーメントは \(\|\,\boldsymbol{F}\,\|\cdot\mbox{OH}\) です。これが高校物理での考え方でした。

さて,ここから,力の作用点の位置ベクトルと力のベクトルの外積がモーメントになることを確認しましょう。

\(\boldsymbol{F}\) のモーメント \(= \|\,\boldsymbol{F}\,\|\cdot\mbox{OH} = \|\,\boldsymbol{F}\,\|\cdot\mbox{OA}\sin\angle\mbox{OAH}\)

これで分かってしまった方もいると思いますが,念のために・・・解説します。

外積は空間ベクトルについて定義されるものですから,位置ベクトルと力のベクトルの \(z\) 成分を \(0\) として空間ベクトルと見なします。その上で,作用点 \(\mbox{A}\) の位置ベクトルを \(\boldsymbol{a}\) とします。\(\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{F}\)\(xy\) 平面と垂直,すなわち \(z\) 軸に平行なベクトルになります。成分は,\((0,\ 0,\ z)\) の形をしています。

\(x\)

\(y\)

\(\boldsymbol{F}\)

\(\boldsymbol{a}\)

\(\|\,\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{F}\,\|\) は上図のグレーの平行四辺形の面積です。そして,この面積は \[\begin{eqnarray} && \|\,\boldsymbol{a}\,\|\cdot\|\,\boldsymbol{F}\,\|\cdot\sin\left(\pi - \angle\mbox{OAH}\right) \\[2px] &=& \|\,\boldsymbol{a}\,\|\cdot\|\,\boldsymbol{F}\,\|\cdot\sin\angle\mbox{OAH} \\[2px] &=& \|\,F\,\|\cdot\mbox{OH} \end{eqnarray}\] となり,モーメントの大きさが 外積 \(\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{F}\) の大きさと一致することが分かりました。ここで,反時計回りのモーメントを正とすれば,\(\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{F}\)\(z\) 軸方向に正負のどちらを向いているかと一致します。よって,複数の力が作用している場合にも,作用するそれぞれの力について作用点の位置ベクトルと力のベクトルとの外積を求め,それらを加えればモーメントの総和を求めることができます。

それでは,お題のモーメントを外積で計算しましょう。 \[\begin{eqnarray} && [\,2,\ 2,\ 0\,]\times[\,-2,\ 1,\ 0\,] = \left|\,\begin{array}{ccc} \boldsymbol{i} & \boldsymbol{j} & \boldsymbol{k} \\ 2 & 2 & 0 \\ -2 & 1 & 0 \end{array}\,\right| = 6\boldsymbol{k} \\[4px] && [\,-1,\ 2,\ 0\,]\times[\,-2,\ 2,\ 0\,] = \left|\,\begin{array}{ccc} \boldsymbol{i} & \boldsymbol{j} & \boldsymbol{k} \\ -1 & 2 & 0 \\ -2 & 2 & 0 \end{array}\,\right| = 2\boldsymbol{k} \\[4px] && [\,-1,-2,\ 0\,]\times[\,4,\ 1,\ 0\,] = \left|\,\begin{array}{ccc} \boldsymbol{i} & \boldsymbol{j} & \boldsymbol{k} \\ -1 & -2 & 0 \\ 4 & 1 & 0 \end{array}\,\right| = 7\boldsymbol{k} \end{eqnarray}\]

したがって,モーメントの和は \(6\boldsymbol{k} + 2\boldsymbol{k} + 7\boldsymbol{k} = 15\boldsymbol{k}\quad ∴\quad 15\,N\mbox{m}\)

力の大きさとウデの長さの積 でモーメントを求める際には 回転の向き に注意を払う必要がありますが,外積を用いると回転の向きを気にせず形式的に計算できます。

Last modified: Tuesday, 10 May 2022, 6:35 PM