08 逆関数の導関数
本時の目標
- 逆関数について,元の関数との関係を理解する。
- 逆関数の導関数を求めることができる。
- 逆三角関数について理解し,その導関数を求めることができる。
- 逆三角関数を含む関数の導関数を求めることができる。
逆関数
課題1
A君はバンドに属して音楽活動をしています。A君の属するバンドはある音楽スタジオを借りて練習をしており,そのスタジオを利用するためには 200円の基本料金 と 1分当たり5円の利用料金 とが必要になります。ある日の練習で,A君たちは音楽スタジオに 1250円 を支払いました。その日の練習時間は何分だったでしょうか?ただし,上記の料金には消費税も含まれるものとします。
いきなり小学校の算数のような問題から始まりました。答えは
\((1250 - 200) \div 5 = 210\)(分)
となりますが,少し数学的に考えてみましょう。スタジオの利用時間を \(x\) 分とし,そのときの利用料金を \(y\) 円とすると,\(y\) は \(x\) の1次関数
\(y = 200 + 5x\tag{♪}\)
で表されます。ただし,\(x\) はどのような数でもよいという訳でなく,正の整数でなければなりません。(時間に制限があるだろうから上限があるだろう…と突っ込まれそうですが,そこは無視して時間無制限ということで f^^;) 集合で書けば \(\{1\mbox{,}2\mbox{,}3\mbox{,}\cdots\ \}\) となり,この集合を関数(♪)の定義域といいます。一方 \(y\) の値は,\(200\) より大きい \(5\) の倍数となります。これも集合で表すと \(\{205\mbox{,}210\mbox{,}215\mbox{,}\cdots\ \}\) となり,この集合を関数(♪)の値域といいます。定義域と値域をそれぞれ
\(\mbox{A} = \{1\mbox{,}2\mbox{,}3\mbox{,}\cdots\ \}\mbox{,}\mbox{B} = \{205\mbox{,}210\mbox{,}215\mbox{,}\cdots\ \}\)
と書けば,関数(♪)は,集合 \(\mbox{A}\) から集合 \(\mbox{B}\) への対応ということができます。
さて,課題1の問いは,利用料金から利用時間を求めるというものです。言い換えれば,集合 \(\mbox{B}\) から集合 \(\mbox{A}\) への(♪)と逆の対応を求める問いです。(♪)の関係から \(x\) を \(y\) で表すことができます。
\(\displaystyle x = \frac{1}{5}y - 40\)
この式で \(x\) と \(y\) とを入れ換えると
\(\displaystyle y = \frac{1}{5}x - 40\)
となって,この関数を関数(♪)の 逆関数 といいます。逆関数の定義域は \(\{205\mbox{,}210\mbox{,}215\mbox{,}\cdots\ \}\),値域は \(\{205\mbox{,}210\mbox{,}215\mbox{,}\cdots\ \}\) であり,関数(♪)の定義域・値域と入れ換わります。
逆関数
関数 \(y = f(x)\) と 関数 \(x = g(y)\) が \(x\) と \(y\) の同じ対応を表すとき,関数 \(g(x)\) を関数 \(f(x)\) の逆関数といい,\(f^{-1}(x)\) と表します。
つまり,関数 \(f(x) = 200 + 5x\) に対して \(\displaystyle f^{-1}(x) = \frac{1}{5}x - 40\) となります。
逆関数があるためには?
すべての関数に逆関数があるという訳ではありません。例えば,2次関数 \(y = x^2\) に逆関数はありません。試しに,\(y = x^2\) から \(x\) を \(y\) で表してみましょう。
\(x^2 = y\) つまり \(x = \pm\sqrt{y}\)
となってしまいます。\(y = 0\) の場合を除けば,1つの \(y\) に2つの \(x\) が対応してしまうので,この対応は関数と言えません。
ただし,\(y = x^2\) に \(x \geqq 0\) という定義をつけると,この関数は逆関数をもつようになります。
\(\begin{array}{l} y = x^2 \quad (x \geqq 0) \\[8px] x^2 = y \\[4px] x = \sqrt{y} \quad (\mbox{∵} \quad x \geqq 0) \\[4px] \mbox{∴}\quad y^{-1} = \sqrt{x}\end{array}\)
このように,ある関数が逆関数をもつためには,\(x\) と \(y\) とが1つずつ対応している,つまり 1対1 の対応である必要があります。
指数関数と対数関数
対数の定義は次のとおりでした。
対数
\(1\) 以外の正の定数 \(a\) に対して \(a^x = M\) であるとき,\(x = \log_a M\) と書いて,\(x\) を「\(a\) を底とする \(M\) の対数」といいます。
したがって,関数 \(y = e^x\) について \(x = \log y\) が成り立つので,対数関数 \(y = \log x\) は指数関数 \(y = e^x\) の逆関数です。
実は,逆関数の導関数は元の関数の導関数から求めることができます。例えば,\(y = \log x\) であれば
\(\begin{array}{l} y = \log x \\ e^y = x \\ {\small と書き換えて,両辺を}\ x\ {\small で微分します。} \\ e^y \cdot y' = 1 \\ \displaystyle \mbox{∴}\quad y' = \frac{1}{e^y} = \frac{1}{x}\end{array}\)
課題2
逆関数の性質を利用して,次の関数の導関数を求めましょう。
逆三角関数
\(y = \sin x\),\(y = \cos x\),\(y = \tan x\) は,いずれも周期関数ですから複数の \(x\) の値で同じ \(y\) の値をとりますが,定義域を適切に定めると 1対1 の対応にすることができます。1対1 の対応になれば逆関数を考えることができます。定義域を
\(\left\{\begin{array}{ll} \sin x & \displaystyle \left(-\frac{\pi}{2} \leqq x \leqq \frac{\pi}{2}\right) \\[8px] \cos x & \left(0 \leqq x \leqq \pi\right) \\[8px] \tan x & \displaystyle \left(-\frac{\pi}{2} < x < \frac{\pi}{2}\right) \end{array}\right.\)
としたときの逆関数を,それぞれ
\(\sin^{-1}x \mbox{,} \cos^{-1}x \mbox{,} \tan^{-1}x\)
といいます。(読み方は「アークサイン」「アークコサイン」「アークタンジェント」です。)
GeoGebra を使って,\(\sin^{-1}x\),\(\cos^{-1}x\),\(\tan^{-1}x\) のグラフがどのようになるかを確認しましょう。
次に,逆三角関数の導関数を求めます。
\(\begin{array}{l} y = \sin^{-1}x \\ \sin y = x \\ {\small と書き換えて,両辺を}\ x\ {\small で微分します。} \\ \cos y \cdot y' = 1 \\ \displaystyle \mbox{∴}\quad y' = \frac{1}{\cos y} \\[4px] {\small ところで}\ \sin^2 y + \cos^2 y = 1 \ {\small だから} \\ \displaystyle \cos y = \pm\sqrt{1 - \sin^2 y} \quad {\small となりますが} \\ \displaystyle -\frac{\pi}{2} \leqq y \leqq \frac{\pi}{2}\ {\small であり} \ \cos y \geqq 0 \\ \mbox{∴}\quad \cos y = \sqrt{1 - \sin^2 y} = \sqrt{1 - x^2} \\ {\small よって} \quad \displaystyle y' = \frac{1}{\sqrt{1 - x^2}} \end{array}\)
課題3 次の関数を微分しましょう。
【参考図書】数学辞典(朝倉書店)/理工系入門 微分積分(裳華房)