本日のお題

線形1階の微分方程式 \(\displaystyle y' + a(x)y = f(x)\) について,まず積分因子を理解し,さらに積分因子を用いて一般解を求められるようになります。

線形微分方程式

\[\frac{d^ny}{dx^n} + a_1(x)\frac{d^{n-1}y}{dx^{n-1}} + \cdots + a_{n-1}(x)\frac{dy}{dx}+ a_n(x)y = f(x) \tag{4.1}\]の形の微分方程式を 線形微分方程式 といいます。特に次の (4.2) を 線形1階微分方程式,(4.3) を 線形2階微分方程式 とよびます。\[\begin{eqnarray*} &&y' + a(x)y = f(x) \tag{4.2} \\[4px] &&y'' + a(x)y' + b(x)y = f(x) \tag{4.3} \end{eqnarray*}\]本時は,線形1階の微分方程式について解法を学びます。(4.1) において,\(f(x) = 0\) ならば変数分離形ですから,\(f(x) \ne 0\) の場合を考えます。例えば,\[\begin{eqnarray*} &&y' + \frac{1}{x}\cdot y = e^x \tag{4.4} \\[4px] &&y' + 2xy = 2x \tag{4.5} \end{eqnarray*}\]のような微分方程式です。

ヒントは積の導関数の公式

例題4-1 \(\displaystyle y' + \frac{1}{x}\cdot y = e^x\)

それでは,(4.4) の解法から考えましょう。このままでは,どうすればよいか手掛かりが全くありません。そこで (4.4) の両辺に \(x\) を掛けるというヒントを皆さんに差し上げようと思います。すると\[xy' + y = xe^x\]となります。左辺をよ~く見てください。何か感じませんか? ― 感じる や イマジネーション が数学にはとても大切だと思うのです。\[(xy)' = xy' + 1\cdot y = xy' + y \tag{4.4'}\]積の導関数を思いついた方・・・大正解です。(4.4') は次のようになっています。\[(xy)' = xe^x\]この両辺を \(x\) で積分します。\[\begin{eqnarray*} xy &=& \int xe^x\,dx \\ &=& \int x(e^x)'\,dx \\ &=& xe^x - \int e^x\,dx \\ &=& xe^x - e^x + C \\ \mbox{∴}\quad y &=& e^x - \frac{e^x}{x} + \frac{C}{x} \end{eqnarray*}\]

例題4-2 \(y' + 2xy = 2x\)

(4.5) についても2匹目のどじょうを狙うことにしましょう。じっと左辺を見て感じましょう。

ん~ん,今度は簡単にいきませんねぇ。左辺が何かの導関数になるように変形できれば,右辺を積分するだけなのですが・・・

例題4-1 と同様に何かを掛ければよいのでしょうか? 例えば,掛ける式を \(\mbox{□}\) とおけば\[\mbox{□}\cdot y' + \mbox{□}\cdot 2x \cdot y = \mbox{□}\cdot 2x\]ということは・・・ボンヤリ見えてきましたよ。\[\left(\mbox{□}\cdot y\right)' = \mbox{□}\cdot y' + \left(\mbox{□}\cdot 2x\right) \cdot y\]ですから・・・  \(\displaystyle \mbox{□}' = \mbox{□}\cdot 2x\) です。

\(\mbox{□}\) を微分しても \(\mbox{□}\) が現れる・・・指数関数ですねぇ。さらに \(2x\) が掛けられているということは\[\mbox{□} = e^{x^2}\]これです。見つけました。

それでは,(4.5) の両辺に \(e^{x^2}\) を掛けましょう。\[\begin{eqnarray*} &e^{x^2} y' + (e^{x^2}\cdot 2x)y = 2x e^{x^2}& \\ &\left(e^{x^2}y\right)' = 2xe^{x^2}& \end{eqnarray*}\]つづいて,両辺を \(x\) で積分します。\[\begin{eqnarray*} e^{x^2}y &=& \int 2xe^{x^2}\,dx \\[4px] &=& \int e^{x^2}\cdot (x^2)'\,dx \\[4px] &=& e^{x^2} + C \\[4px] \mbox{∴}\quad y &=& 1 + Ce^{-x^2} \end{eqnarray*}\]

積分因子

ここまでの考察をまとめておきましょう。線形1階の微分方程式\[y' + a(x)y = f(x) \tag{4.2}\]について,\(\displaystyle h(x) = e^{\int a(x)\,dx}\) とすると \(h'(x) = h(x)\cdot a(x)\) となるので,\(h(x)\) を (4.2) の両辺に掛けて\[\begin{eqnarray*} &h(x)y' + h(x)\cdot a(x)y = h(x)f(x)& \\[4px] &h(x)y' + h'(x)y = h(x)f(x)& \\[4px] &\left(h(x)\cdot y\right)' = h(x)f(x)&\end{eqnarray*}\]ここまで来れば,あとは右辺を積分できるかどうかの問題になります。

\(\displaystyle e^{\int a(x)\,dx}\) を微分方程式 (4.2) の積分因子といいます。

積分因子を使って解いてみましょう

例題4-3 線形1階微分方程式\[y' + y = x\] を解きましょう。

解 答

まず,\(y\) の係数である \(1\) を積分します。\(\displaystyle \int dx = x\) (このとき積分定数を付ける必要はありません)となって,積分因子は \(h(x) = e^x\) です。したがって,\[\begin{eqnarray*} &e^x y' + e^x y = xe^x& \\[4px] &\mbox{∴}\quad\left(e^x y\right)' = xe^x& \end{eqnarray*}\]両辺を \(x\) で積分しましょう\[\begin{eqnarray*} e^x y &=& \int xe^x\,dx \\[4px] &=& \int x(e^x)' \,dx \\[4px] &=& xe^x - \int e^x \,dx \\[4px] &=& xe^x - e^x + C \\[4px] \mbox{∴}\quad y &=& x - 1 + Ce^{-x} \end{eqnarray*}\]

例題4-4 線形1階微分方程式\[y' + y\tan x = 1\] を解きましょう。

解 答

\(\displaystyle \int \tan x\,dx = -\log|\,\cos x\,|\) なので,積分因子は \[h(x) = e^{-\log\cos x} = e^{\log\frac{1}{\cos x}} = \frac{1}{\cos x}\]したがって\[\begin{eqnarray*} && \frac{1}{\cos x} \left(y' + y\tan x\right) = \frac{1}{\cos x} \\[4px] && \frac{1}{\cos x}\cdot y' + \frac{\sin x}{\cos^2 x}\cdot y = \frac{1}{\cos x} \\[4px] && \left(\frac{y}{\cos x}\right)' = \frac{1}{\cos x} \\[4px] \mbox{∴}\quad && \frac{y}{\cos x} \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \int \frac{1}{\cos x} \,dx \\[4px] \displaystyle = \int \frac{\cos x}{\cos^2 x}\,dx \\ \displaystyle = \int \frac{\cos x}{1 - \sin^2 x}\,dx \\ \displaystyle = \int \frac{\cos x}{(1 - \sin x)(1 + \sin x)}\,dx \\ \displaystyle = \int \frac{1}{2}\left\{\frac{-(1 - \sin x)'}{1 - \sin x} + \frac{(1 + \sin x)'}{1 + \sin x} \right\}\,dx \\ \displaystyle = \frac{1}{2} \left\{-\log\left(1 - \sin x\right) + \log\left(1 + \sin x\right)\right\} + C \\ \displaystyle = \frac{1}{2} \log\frac{1 + \sin x}{1 - \sin x} + C \end{array} \\[4px] \mbox{∴}\quad && y = \cos x \left(\log\sqrt{\frac{1 + \sin x}{1 - \sin x}} + C\right) \end{eqnarray*}\]

問題演習

課題4-1 次の微分方程式を解きましょう。

1. \(y' - y = e^x\) 解答 隠す

2. \(y' - y\tan x = \cos x\) 解答 隠す

3. \(\displaystyle y' - \frac{1}{x}\cdot y = x\log x\) 解答 隠す

4. \(y' - 2y = \sin x\) 解答 隠す

これで,線形1階の微分方程式を解けるようになりました。といっても,積分が求められればという前提がありますが。今のところ,不定積分を原始関数を求めるということで考えていますので,求められる微分方程式は限定されます。とは言え,この辺りまで分かると「微分方程式,ちょっと面白いかも!!」と思えるのではないでしょうか。

次回から \(y'' + ay' + y = 0\) の形の線形2階微分方程式を扱います。(という構成でしたが,線形2階の微分方程式に行く前に少々典型的な微分方程式を挟みました。もし高校生の皆さんが読んでいらしたら,3回ほど読み飛ばして「線形2階微分方程式」に進むのが宜しいと思います。)第1回で「運動方程式」をモチーフにして微分方程式の勉強を始めました。線形2階の微分方程式の解き方が分かると,物理の学習においても運動方程式がぐっと理解しやすいもになるると思います。頑張りましょう。

Last modified: Monday, 2 August 2021, 4:54 PM