本日のお題

  1. \(e^x\)\(\sin x\)\(\cos x\) について,\(x = 0\) の周りの近似式としてマクローリン多項式について理解します。
  2. マクローリン展開からオイラーの公式\[e^{ix} = \cos x + i\sin x \]を導きます。

線形2階斉次微分方程式 \(y'' + ay' + by = 0\ \cdots\ (♪)\) について,特性方程式が相異なる実数解 \(\alpha\)\(\beta\) をもつとき,一般解は\[y = C_1 e^{\alpha x} + C_2 e^{^\beta x}\]となりました。もし,このことが虚数の特性解の場合にも成り立つと仮定すると,次の微分方程式の一般解はどのようになるでしょうか?\[y'' + y = 0 \tag{7.1}\]特性方程式は \(\lambda^2 + 1 = 0\) ですから,特性解は \(\lambda = \pm i\) です。したがって,(7.1) の一般解は\[y = C_1 e^{ix} + C_2 e^{-ix}\]となる? 実は,これで正しいのです。

でも,虚数の指数って何? 当然の疑問ですよね。指数は,元々,ある数が何個掛けられているかを表すものでした。それが,指数法則が成り立つという条件の下に,自然数から整数へ,整数から有理数へ,さらには実数への拡張されました。今度は,複素数全体へ拡張しようという話しなのです。まずは,定義を紹介します。

オイラーの公式

\(e^{ix} = \cos x + i\sin x\)

勿論,指数法則は成り立っています。三角関数の加法定理から,そのことを確かめることができます。しかし,それだけではいけませんね。指数関数が三角関数で表される? この部分に必然性・妥当性がなければなりません。本時は,その必然性や妥当性に関して説明します。

\(e^x\) のマクローリン多項式とマクローリン展開

関数 \(f(x) = e^x\) のグラフに点 \(\left(0,\ 1\right)\) における接線を引きます。

\(x\)

\(y\)

\(\left(0,\ 1\right)\)

\(y = x + 1\)

\(f'(x) = e^x\) ですから,点 \(\left(0,\ 1\right)\) における接線の方程式は\[\begin{eqnarray*} &y - 1 = e^0\cdot(x - 0)& \\ &∴\quad y = x + 1& \end{eqnarray*}\]都合で,これを \(y = 1 + x\) と書くことにします。すると \(x = 0\) の近くでは\[e^x ≒ 1 + x\]が成り立っている,言い換えれば \(x ≒ 0\) のとき \(e^x\)\(1 + x\) で近似されるということになります。ただし,成り立つ範囲は極狭いものです。この範囲を広げることができないでしょうか?

\(y = e^x\) のグラフは曲線ですから,直線でなく曲線で近似してはどうか? これは自然な発想です。近似式を \(g(x)\) で表すことにします。\(g(x)\) が1次式ならば\[g(0) = f(0)\ ,\quad g'(0) = f'(0)\]を満たしています。そこで,\[g(0) = f(0),\quad g'(0) = f'(0),\quad g''(0) = f''(0)\]を満たす2次式 \(g(x)\) を見つけましょう。\(f(x) = e^x\) は何度微分しても \(f^{(n)}(x) = e^x\) となり,\(f^{(n)}(0) = 1\)です。\[g(x) = 1 + x + ax^2\]とすれば,\(g(0) = g'(0) = 1\) ですから,あとは \(g''(0) = 1\) を満たすように係数 \(a\) の値を定めれば良いということになります。\[g''(x) = 2a\]であり,この式から \(\displaystyle a = \frac{1}{2}\) は容易に求められます。もう1つ行きましょう。\(g(x)\) が3次式になったらどうでしょう。\[g(x) = 1 + x + \frac{1}{2}x^2 + ax^3\]とおいて,\(g^{(3)}(0) = 1\) となるように \(a\) の値を定めれば\[\begin{eqnarray*} && a = \frac{1}{2\cdot 3} = \frac{1}{6} \\[4px] ∴\quad && g(x) = 1 + x + \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{6}x^3 \end{eqnarray*}\]本当に \(f(x) = e^x\) のグラフに近づいているのでしょうか?確かめたくなります。

\(x\)

\(y\)

\(\left(0,\ 1\right)\)

\(g(x) = \)

上のテキストボックスに関数の式を入力すると,そのグラフを描きます。式の入力は\[\mbox{1+x+x^2/2+x^3/6}\]のようにしてください。入力された式が式として正しいものならば,その式のグラフを描きますから,上の式を入力していくと \(g(x)\) のグラフがだんだん \(f(x) = e^x\) のグラフに近づいていることが分かると思います。近似式の次数を更に上げていくと,次のようになります。計算することは難しくありません。それぞれの項の分母は次数の階乗になっていますね。\[g(x) = 1 + x + \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \frac{x^4}{24} + \frac{x^5}{120} + \frac{x^6}{720} + \frac{x^7}{5040} + \cdots\]この近似式を \(e^x\) のマクローリン多項式と呼びます。\(e^x\) の場合は,マクローリン多項式の次数をどんどん上げていくと,その和の極限は \(e^x\) に一致します。つまり\[e^x = \sum_{k = 0}^{\infty}\frac{x^{k}}{k!}\]が成り立ち,これを \(e^x\) のマクローリン展開と呼びます。

三角関数ののマクローリン展開

\(e^x\) と同様にして,\(\sin x\) のマクローリン多項式を作ると次の式になります。\[\sin x ≒ x - \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} - \frac{x^7}{5040} + \cdots\]これも,グラフを描いて確認しましょう。

\(x\)

\(y\)

\(g(x) = \)

確認できたでしょうか? \(\sin x\) は奇関数ですから,そのマクローリン多項式も奇数乗だけの多項式になっています。

\(\cos x\) のマクローリン多項式は次の式です。\[\cos x ≒ 1 - \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} - \frac{x^6}{720} + \cdots\]\(\cos x\) は偶関数ですから,こちらは偶数乗だけの多項式でね。

さらに,\(\sin x\) についても,\(\cos x\) についても,マクローリン多項式の項を限りなく増やしていくと,ともに \(\sin x\)\(\cos x\) に収束します。つまり,\(\sin x\)\(\cos x\) にはともにマクローリン展開が存在するということです。

オイラーの公式

\(e^x\)\(\sin x\)\(\cos x\) のマクローリン展開を並べて比べます。\[\left\{\begin{array}{l} \displaystyle e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \frac{x^4}{24} + \frac{x^5}{120} + \frac{x^6}{720} + \frac{x^7}{5040} + \cdots \\ \displaystyle \sin x = x - \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} - \frac{x^7}{5040} + \cdots \\ \displaystyle \cos x = 1 - \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} - \frac{x^6}{720} + \cdots \end{array}\right.\]\(e^x\) のマクローリン展開に \(x = i\theta\) を代入します。すると\[\begin{eqnarray*} e^{i\theta} &=& 1 + i\theta - \frac{\theta^2}{2} - \frac{i\theta^3}{6} + \frac{\theta^4}{24} + \frac{i\theta^5}{120} - \frac{\theta^6}{720} - \frac{i\theta^7}{5040} + \cdots \\[4px] &=& 1 - \frac{\theta^2}{2} + \frac{\theta^4}{24} - \frac{\theta^6}{720} + \cdots \\ &&\hspace{8em} + i\left(\theta - \frac{\theta^3}{6} + \frac{\theta^5}{120} - \frac{\theta^7}{5040} + \cdots\right) \\[4px] &=& \cos\theta + i\sin\theta \end{eqnarray*}\]\(e^{i\theta}\) の実部と虚部が,それぞれ \(\cos\theta\)\(\sin\theta\) のマクローリン展開に一致しています。そこで\[e^{ix} = \cos x + i\sin x\]と考えようというものです。

今日はここまでです。課題はありません。オイラーの公式は,関数を考える上でとても重要なものです。工学を学ぶ方にとっては,頻繁に現れるものです。イメージを掴めていただけたら幸甚です。マクローリン展開とテイラー展開などについて,こちらでもう少ししかっり説明していますので,興味のある方はどうぞ。

微分積分/演習 授業ノート

次回は,オイラーの公式を使って,線形2階斉次微分方程式の特性解が虚数になる場合を考えます。

最終更新日時: 2021年 08月 2日(月曜日) 17:00