本日のお題

\(\triangle\mbox{ABC}\) について,次の値を求めましょう

  1. \(b = 2\)\(c = 3\)\(A = 60^{\circ}\) のとき,\(a\) の大きさは?
  2. \(a = 7\)\(b = 5\)\(c = 8\) のとき,\(A\) の大きさは?
  3. \(B = 45^{\circ}\)\(C = 75^{\circ}\)\(a = \sqrt{6}\) のとき,\(b\) の大きさは?
  4. 3. の\(\triangle\mbox{ABC}\) の外接円の半径は?

今日は,三角比の重要公式である 正弦定理余弦定理 について覚えましょう

最初に記号について確認します

\(\triangle\mbox{ABC}\) があったとき,頂点 \(\mbox{A}\) に向かい合う辺 \(\mbox{BC}\) の大きさを \(a\) と書きます

\(\mbox{CA}\)\(\mbox{AB}\) の大きさについても同様にそれぞれ \(b\)\(c\) と書きます

また,頂点を \(A\) と斜体で書いた場合は,\(\angle\mbox{A}\) の大きさを表します

余弦定理

まず,余弦定理からです

これは,三平方の定理の,一般の三角形への拡張バージョンと考えて宜しいでしょう

例えば,\(A = 90^{\circ}\) ならば,次の三平方の定理が成り立ちます \[a^2 = b^2 + c^2\] が成り立ちます

これが,一般の三角形になると,余弦定理 という,次の三つの関係が成り立つのです

余弦定理

\[\begin{eqnarray}&& a^2 = b^2 + c^2 - 2bc \cos A \\ && \label{second}b^2 = c^2 + a^2 - 2ca \cos B \\ \label{first} && c^2 = a^2 + b^2 - 2ab \cos C \end{eqnarray}\]

それでは,余弦定理を証明していきましょう

一つを証明すれば,残りの二つも成り立つことが分かるので,代表して二番目の \((2)\) 式を示します

\(y\)

\(x\)

\(\mbox{B}\) を座標平面の原点上に置き,点 \(\mbox{C}\)\(x\) 軸の正の部分に配置します
つまり,\(\mbox{C}\,\left(a, \ 0\right)\) となります

すると,点 \(\mbox{A}\) は,原点を中心とする半径 \(c\) の円周上にあることになりますから,三角比の定義により \(\mbox{A}\,\left(c\cos B,\ c\sin B\right)\) という座標になります

これらの座標を用いて \(b\) の長さを求めると,距離の公式から \begin{equation} b^2 \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \left(c\cos B - a\right)^2 + \left(c \sin B - 0\right)^2 \\ \displaystyle = c^2 \cos^2 B - 2ca\cos B + a^2 + c^2 \sin^2 \\ \displaystyle = c^2 \left(\cos^2 B + \sin^2 B\right) + a^2 - 2ca\cos B \\ \displaystyle = c^2 + a^2 - 2ca \cos B \end{array}\end{equation} となって \((\ref{second})\) を示すことができました

とまぁ,これで証明は宜しいのですが,余弦定理の証明に座標を持ち出して距離を考えるという点に「美しくなさ!!」を感じてしまいます
もとより,数学の勉強など何もしてこなかった私とは言え,大学時代には,彼の 寺田文行先生 の研究室で代数的整数論を学んでおりました
寺田先生のご専門は,二十世紀数学の傑作,数学の美の極み と言われた「類体論」です
しかも,先生ご自身,髙木貞治先生と並び称される アルティン先生のお弟子さんです
いくらなんでも,多少の美を追究しなければ,草葉の陰から先生にお叱りを頂戴します

そこで,もう一つ・・・実は,上に書いた 余弦定理 は 第ニ余弦定理 と呼ばれることもありまして,ということは 第一余弦定理 なるものがあるはずです

第一余弦定理

\(\triangle\mbox{ABC}\) において,次の関係が成り立ちます

\[\begin{eqnarray} \label{third} && a = b\cos C + c\cos B \\ && b = c\cos A + a\cos C \\ && c = a \cos B + b \cos A \end{eqnarray}\]

第一余弦定理の成り立つことは,下のような図を書けば明らかです
この図では,一番上の \((\ref{third})\) が成り立つことが分かります
図では,\(\angle\mbox{B}\)\(\angle\mbox{C}\) ともに鋭角ですが,いずれかが鈍角になっても成り立つことは容易に分かります。

\(c\cos B\)

\(b\cos C\)

さて,この図では,\((\ref{third})\) 式が成り立つと同時に \begin{equation} b \sin C = c \sin B \end{equation} の成り立つことが分かるので,この式の両辺を2乗して変形すると次のようになります \begin{equation} \begin{array}{l} b^2 \sin^2 C = c^2 \sin^2 B \\ b^2 \left(1 - \cos^2 C\right) = c^2 \left(1 - \cos^2 B\right) \\ b^2 \cos^2 C - c^2 \cos^2 B = b^2 - c^2 \end{array} \end{equation} ここで,\((\ref{third})\) 式を \(a - b\cos C = c \cos B\) と変形して,この式の両辺を2乗すると次のようになります \begin{equation} \begin{array}{l} a^2 - 2ab \cos C + b^2 \cos^2 C = c^2 \cos^2 B \\ a^2 - 2ab \cos C + b^2 \cos^2 C - c^2 \cos^2 B = 0 \\ a^2 - 2ab \cos C + b^2 - c^2 = 0 \\ c^2 = a^2 + b^2 - 2ab \cos C \end{array} \end{equation} これで,余弦定理の \((\ref{first})\) 式の成り立つことが分かりました

以上のように考えていくと,第一余弦定理から余弦定理(第ニ余弦定理)を導出でき,こちらの論の方が,少なくとも私には美しく感じられます

余弦定理を使って,お題を解きましょう

(1) 余弦定理が分かっていれば,数値を当てはめるだけですね \[\begin{array}{l} a^2 = 2^2 + 3^2 - 2\cdot 2\cdot 3\cos 60^{\circ} \\ \quad = 13 - 12\cdot \displaystyle\frac{1}{2}\\ \quad = 7\\ \mbox{∴}\quad a = \sqrt{7} \end{array}\]


(2) \(A\) を求めたいので,余弦定理の式を少々変形して用います \[\displaystyle \cos A = \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2bc}\] この式に \(a = 7\)\(b = 5\)\(c = 8\) を当てはめれば \[\cos A \begin{array}[t]{l} \displaystyle = \frac{5^2 + 8^2 \,- 7^2}{2\cdot 5\cdot 8} \\ \displaystyle = \frac{1}{2}\end{array} \\ ∴\quad A = 60^{\circ}\]


正弦定理

次に正弦定理を見ていきましょう・・・初めに成り立つ式を示します

正弦定理

\[\frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C} = 2R \]

\(R\)\(\triangle\mbox{ABC}\) の外接円の半径)


この式をどう見るかです・・・私としては比例式つまり \[\sin A:\sin B:\sin C = a:b:c\] と見たいと思います

例えば \(\sin A:\sin B:\sin C = 3:4:5\) が成り立てば \[a:b:c = 3:4:5\] が成り立つということで,この三角形は直角三角形ですね

直角三角形と言えば \(\sin^2 A + \sin^2 B = \sin^2 C\) が成り立っているようなときもそうです・・・分かりますか?(どう見ると分かりやすいかは,人ぞれぞれですから強要はいたしません)


それでは,正弦定理も証明ししましょう


上のアプレットは GeoGebra で作成してありまして,円は \(\triangle\mbox{ABC}\) の外接円です

\(\mbox{D}\) は外接円の中心で,点 \(\mbox{A}'\)\(\mbox{BD}\) の延長と外接円との交点です

つまり,\(\mbox{A}'\mbox{B}\) は外接円の直径になっているので,\(\angle\mbox{A}'\mbox{CB}\) は直角です

\(\mbox{A}\) を動かすことができるから動かしてみてください

\(\mbox{A}\) がどこに動いても,\(\angle\mbox{BAC}\)\(\angle\mbox{BA}'\mbox{C}\) とは弧 \(\mbox{BC}\) に立つ円周角ですから等しくなっています

ですから,\(\triangle\mbox{ABC}\) の外接円の半径を \(R\) とおけば \[a = 2R\sin A' = 2R\sin A\] つまり \(\displaystyle \frac{a}{\sin A} = 2R\) が成り立ちます

\(a\)\(A\) について成り立つことは,\(b\)\(B\)\(c\)\(C\) についても成り立つので \[\displaystyle \frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C} = 2R\] が成り立ちます・・・以上で証明終了と言いたいところなのですが・・・

いつもイイ加減な私が,今日は,ちょっとばかりキチンとやってみたい気分になっております f^^;

上で確認できたのは,\(\angle\mbox{BAC}\) が鋭角のときです

直角のときと鈍角のときも成り立つことを示さなければなりません

直角のときは,辺 \(\mbox{BC}\) が外接円の直径になるとき,そして \(\sin 90° = 1\) ですから \[\displaystyle \frac{a}{\sin A} = 2R\] が成り立ちます

問題は,\(\angle\mbox{BAC}\) が鈍角になるとき・・・あらっ,アプレットで鈍角三角形を作ろうとすると \(\triangle\mbox{A}'\mbox{BC}\) が消えてしまいます

実は・・・鈍角三角形は,点 \(\mbox{A}\) を辺 \(\mbox{BC}\) の下側にもっていくとできるのです

このとき,四角形 \(\mbox{A}'\mbox{BAC}\) は円に内接する四角形ですから \(A + A' = 180°\) となります \[\sin A = \sin(180° - A') = \sin A'\] がやはり成り立ちます

そうしますと,後は鋭角の場合と同じです・・・今度こそ証明終了です


正弦定理を使って,お題を解きましょう

この問いでは,三角形の決定条件のうち「二角挟辺」で三角形が確定しています

そして,\(A = 180° - (45° + 75°) = 60°\) です

\(a = \sqrt{6}\) が分かって,\(A\) の大きさも知り得ましたから,正弦定理に当てはめて \[\begin{array}{l} \displaystyle \frac{b}{\sin 45^{\circ}} = \frac{\sqrt{6}}{\sin 60^{\circ}} \\ \displaystyle b = \frac{2\sqrt{6}}{\sqrt{3}}\cdot\frac{1}{\sqrt{2}} \\ \mbox{∴}\quad b = 2 \end{array}\] 次に外接円の半径は \[2R = \displaystyle \frac{\sqrt{6}}{\sin 60°} = 2\sqrt{2} \\[2px]∴\quad R = \sqrt{2}\]

練習問題

\(\triangle\mbox{ABC}\) について,次の値を求めましょう

(1) \(B = 45°\)\(C = 75°\)\(a = \sqrt{6}\) のとき,\(c\) の大きさは? 解答 隠す

(2) (1) の \(\triangle\mbox{ABC}\) において,\(\sin C\)\(\cos C\) の値は? つまり \(\sin 75°\)\(\cos 75°\) の値です 解答 隠す

(3) \(A = 45°\)\(b = \sqrt{2}\)\(c = 1 + \sqrt{3}\) のとき,\(\triangle\mbox{ABC}\) の外接円の半径は? 解答 隠す

最終更新日時: 2021年 07月 24日(土曜日) 13:04